今回の記事では、税務調査後に課税処分等の取消訴訟を提起する場合に必要な要件や、誰が被告として出頭するのか、また被告側の対応について詳しく解説します。
目次
税務調査後に訴訟提起する場合の要件
不服申立ての前置
税務調査後に、税務署長等の行った更正処分などに対して訴訟を提起するには、審査請求を経ていることが一つの要件です(通則法115①)。
審査請求を経るということは、裁決があったということです。当然ですが、納税者の主張が認められ、処分の全部を取り消す裁決があった場合は、もはや訴える利益がないので、訴訟は提起できません。
審査請求で取消しを求めた処分について、裁決によっても、少しでも取り消されていない部分があれば、その部分について訴訟を提起することになります。
ただし、不適法な審査請求であるとして、例えば、審査請求書の提出がその提出期限後であったことなどにより審査請求自体が不適法とされ、「審査請求を却下する。」という裁決となった場合は、審査請求を経たことにはならないので、その後に訴訟を提起しても、不適法な訴えということで、訴えが却下されてしまいます。
審査請求の日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がない場合も訴訟を提起することができるとされていますが(通則法115①一)、通常は、却下の場合を除き、審査請求から3か月以内に裁決があることはありません。
裁決に要する期間については、審判所においては、審査請求に対する裁決は、概ね1年以内に行うこととしており、実際に、裁決までにそのくらいの期間を要するのが通常です。
裁決による処分取消しの確率が相当低いとしても、審査請求の過程で原処分庁の証拠を確認することができるなど、一定のメリットがあるのですが、訴訟を急ぐのであれば、3か月経過後に訴訟を提起することができます。
出訴期間
処分の取消しの訴えは、「処分又は裁決のあったことを知った日から6か月を経過したときは、提起することができない」(行訴法14①)とされています。また、知った日とは、処分を記載した書類が当事者の住所に送達される等、社会通念上処分のあったことを当事者が知り得べき状態に置かれたときは、反証のない限り知ったものと推定されることになります(最高裁昭和27年11月20日判決)。
つまり、裁決書の送達日から6か月以内に訴状を裁判所に提出しなければなりません。
租税事件については、地方裁判所に訴状を提出します。自ら一人で訴訟を行うこともできますが、裁判官は何もしてくれません。自らしっかりした主張や立証を行い、有効な反論も行わなければ裁判には勝てません。訴訟の代理人には弁護士しかなれませんので、早急に弁護士と協議し、期限内に訴状を提出する必要があります。
なお、調査や審査請求に関与してきた税理士だとしても、補佐人という立場でしか訴訟に関与できませんので、訴状を作成するに当たっては、当該税理士と、訴訟を担当する弁護士との協議の時間が必要になります。訴状の、裁判官に与える第一印象が大変重要だと思います。
国の機関等に対する訴えと法務省との関係
課税訴訟であれば、平成16年の行政事件訴訟法の改正以前は、処分行政庁である税務署長や国税局長等を被告として訴状を提出していましたが、改正法が施行された平成17年4月1日以後は、被告は国とすることになっています。
では、税務調査後に課税処分等の取消訴訟を提起する場合、誰が被告・国として裁判所に出頭するのかということですが、これについては、「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」において、国及び行政庁等に対する訴訟について概ね次のように定めています。
①国に利害のある訴訟については、法務大臣が国を代表する。
②法務大臣は、所部の職員及び必要な場合に行政庁等の職員を指定して訴訟に当たらせることができる。
③行政庁等も所部の職員を指定して訴訟に当たらせることができる。
④行政庁等は、法務大臣の指揮を受けるものとする。
このような規定により、法務省が国や行政庁等の訴訟を管轄しており、これを担当する組織として法務省内に訟務局があり、訟務企画課・民事訟務課・行政訟務課・租税訟務課・訟務支援課が設置されています。
その下部機関として、東京法務局など全国に8つの法務局があり、そこに訟務部が設置され、配属された部付検事(訟務検事)と呼ばれる法曹資格を持つ職員が国の指定代理人となって出廷するなどして、訴訟追行をしています。
訴訟遂行ではなく追行としているのは、民事訴訟法第2条(裁判所及び当事者の責務)で次のように定めているからです。
「第2条 裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。」
訟務検事の経歴
行政庁における事件はもちろんですが、地方自治体や独立行政法人に関する事件についても、法務大臣が必要があると認めるものについて法務大臣が関与します。
法廷の被告席に座っているのは、国側の指定代理人となった訟務検事が率いるチームで、訟務検事は、税務訴訟だけでなく、原子力関係訴訟、旧優生保護法訴訟、基地関係訴訟、B型C型肝炎訴訟ほか様々な事件を担当しています。
訟務検事の経歴は、裁判所の判事から出向してきた方、検事から出向してきた方のほか、弁護士から任期付きで採用された方となっています。
つまり、課税処分等の取消訴訟を提起した場合、戦う相手である被告の弁護士に相当する者は、裁判のプロである元裁判官や元検事ということです。したがって、課税処分等の取消訴訟を提起するのであれば、国税不服審判所への審査請求中に、早い段階で税務訴訟経験の豊富な弁護士事務所に相談し、勝訴の可能性も踏まえた上で、訴訟準備を進めていく必要があります。