会計の強固な仕組みを会社全体で作り上げていくことは一朝一夕に成せるものではありません。
日々の業務や月次業務の積み重ねに加え、自発的な改善活動も必要になってくるでしょう。また、年に1回は監査と言われる客観的なチェック機能を活用することも必要不可欠です。

人に例えると、自主的に取り組んでいる日々の食生活や運動習慣に問題がないかをチェックするための健康診断のようなものでしょう。ここで正常値が維持できているか?潜在的な問題がないか?を毎年確認しておくことで、翌年の課題や解決すべきことも見えてくるものです。

本項では税務調査対策の目線を絡めて強固な会社組織をつくるための監査のポイントを解説していきます。

会計監査とは?

会計監査とは?

会計監査と聞くと中小企業にとっては縁遠いものに感じる方もいるかと思います。確かに会社法により会計監査法人による監査が義務付けられているのは概ね大企業となります。

監査とは法令や社内規定などのルールが適切に守られているかを確認するために行うチェックです。適正な監査が実施される事により、組織の内部統制の強化を図る事ができます。

会計監査では特にお金の流れや取扱い、適正な税務申告を行うために必要なルールや資料の管理・運用が、適切に行われているかのチェックを行います。財務諸表監査と呼ばれる事もあります。

≪監査義務対象の要件≫
①大会社(会社第三百二十八条1項・2項)
②監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社(会社法第三百二十七条5項)
③会計監査法人の任意設置を行った会社(会社法第三百二十六条2項)

≪会計監査の種類≫
①内部監査(組織で自主的に行う監査)
②外部監査(公認会計士又は監査法人が行う監査)
③監査役監査(監査役が行う監査)

冒頭で述べた通り、中小企業にとって義務ではない会計監査も強固な会社組織をつくるためには非常に有用です。
本項では①内部監査に絞って解説をしていきます。

会計監査の目的と実施のポイント

会計監査の目的と実施のポイント

月に1度の会計チェックとは別に、年に1回会計監査を行います。
これは、会計の仕組みがきちんと確立されているかどうかを見るものです。

たとえば、「今の会計帳簿が誰でも修正できる状況になっているかどうか」
「税理士とのメールのやりとりは、きちんと書類にパスワードをかけているかどうか」など、リスクを洗い出して防ぐ仕組みを強固なものにしていきます。不正の発見、予防にも年1度の会計監査は大切です。会計監査チェック計画を作成し、会計監査を実施して評価・検証していきます。さらに、改善点について報告書を作成し、改善活動につなげるまでが会計監査の業務です。

不正の発見、客観的で複眼的なアドバイス、気づきの頻度という点からは、基本的に第三者が実施するほうが効果が高いと言えます。初めて会計監査を実施する場合、全社で行うのは難易度が高いかもしれません。主要部署のみに実施するなど、やれるところから着手して少しずつ広げていくとよいでしょう。

≪会計監査実施時期の目安≫
実施するのは、繁忙期以外の月、または申告の翌月〜翌々月あたりが一般的です。

税務監査とは?

税務監査とは?

年に1回実施が推奨されるものとして、会計監査の他に税務監査という考え方があります。
税務監査とは会計帳簿を監査したり、模擬的に内部で実施する税務調査を行う事で、正しい税務申告を行えているかをチェックし、法令順守に基づく税務申告を行えているかを確認する事で、意図していない脱税などのリスクから会社を守る事に繋げるための監査です。

税務監査の目的と実施のポイント

税務監査の目的と実施のポイント

税務申告は税理士が必ずチェックしたうえで提出するものですから、通常は法令に順守した内容となっているはずですが、法律の解釈は属人的な理解により多少左右される事もありますし、人間が行っている以上はミスが生じる可能性もゼロではありません。

最終的なリスクを負うのは会社・経営者ですから、社内でも定期的に税務監査を行うべきです。

≪税務監査実施時期の目安≫
年に1回の監査実施が難しい場合には、最低5年に1回は行うようにしましょう。5年という数字の根拠としては、確定申告書を提出したあとに税額計算などのミスがあった場合に、正しい税額に修正するための手続きである「更正の請求」を行えるのが申告期限から5年だからです。実施時期は、会計監査と同様に繁忙期以外から選びましょう。

≪税務監査実施のポイント≫
先述の通り普段依頼している税理士の税務知識が必ずしも税務署に認められるとは限りません。そのため、5年に1回は外部の別の税理士等にチェックしてもらう方法もあります。税務監査は、会計監査と同様、不正の発見、予防にも効果があります。

実施方法は、おおまかに会計監査と同様です。計画を作成し、チェックをして評価・検証。結果は税理士に報告。具体的な対応と改善行動を求めます。実施するのは、経営者もしくは経理部長、セカンドオピニオンの税理士です。
更正の期間に合わせて5年分の申告書と届出書関係もチェックしておきましょう。

税務代理権限証書とは?

税務代理権限証書とは?

申告書の監査を行う際は、「税務代理権限証書」についても確認しましょう。税務代理権限証書とは税理士が納税者の代わりに申告書を作成する際に提出が義務付けられている書類です。(税理士法第30条)

税理士に申告書作成を依頼している場合、一般的には申告書類の控えなどと一緒に渡される事が多いです。ただし、税務署への提出は義務であっても、納税者へ提出する事自体は義務化されていないので渡されていない場合もあります。

極稀に税理士が税務署に税務代理権限証書を提出していない場合があります。詳細は後述しますが、納税者側にとっては税務代理権限証書が提出されていない事で得られるメリットはありません。手元に税務代理権限証書が見当たらない場合は、念のために申告を担当した税理士に確認をしておきましょう。

税務代理権限証書の様式イメージはこちら

※国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/zeirishi/annai/001.htmより

税務代理権限証書を確認しよう

チェックリスト

税務代理権限証書を確認する際に重要となるのが、2つめのチェックボックスにあたる「調査の通知に関する同意」にチェックが入っているかどうかになります。

チェックが入っていれば税務調査の事前通知が税理士に行くようになります。逆にチェックが入っていない場合は税務署からのお尋ねが納税者自身に入る事になります。事前通知は、税理士が受けたほうが初期対応に間違いが少なくて済みますので、確認しておきましょう。

税務代理権限証書とは別に知っておきたいのが「書面添付制度」です。書面添付制度(税理士法第33条2第1項)とは、税理士が作成し申告書に添付する書類です。内容は「帳簿書類についてはこういう形で行いました」「こういうところを見ました」など、申告に関する情報を具体的に記載したものになります。

この書面にきちんとした記載をしておくと、税務調査も税理士の意見聴取だけで済むケースがあります。経営者の負担が少なく済むうえ、国税局も推奨しているため、書面添付制度についてはしっかりと利用しましょう。