税務調査を納得した形で終えるには、日々の万全な経理、入念な事前準備、当日の対応方針など、あらゆる点で注意しておくべきだとこのコラムを通じて伝えてきました。
その背景には、税務調査官も当然、狙いや目的を持って今回の税務調査を行なっているからに他なりません。
調査官が掲げる目的を達成するために、税務調査が行われ、調査当日の進め方や聞き出したい内容、聞き出した内容を記録する行政文書「質問応答記録書」が入念に準備されます。聞かれた質問に対して答えた内容は記録され、最後に間違いがないか?サインを求められることもあるでしょう。今回は、税務調査官が持っている税務調査当日の羅針盤とも言える質問応答記録書について解説を交え考察しています。

質問応答記録書とは?

質問応答記録書とは?

質問応答記録書とは、課税要件の充足性を確認するうえで、重要と認められる事項について事実関係の正確性を期するため、その要旨を記録し、統括官等に報告するために税務調査官が作成する行政文書のことです。
つまり、税務調査官が調査で分かってきた事実関係や取引相手などの関係者に関する事項や納税に関する事項などについて質問し、得た回答に間違いがないことを納税者に署名・押印をさせて作成する証拠書類(エビデンス)です。
たとえば次のようなケースで質疑応答記録書を作成しようとします。

●所得税・法人税の調査において、外注費計上の根拠として提出された役務の提供を約した契約書について、納税者に具体的内容を質問したところ、実際には役務の提供の事実がないとの回答があった
●所得税・法人税の調査において、調査対象者と取引先等の間で、取引等に関する回答に齟齬が認められる
● 相続税の調査において、申告財産に含まれていない自宅現金の帰属について相続人に質問検査等を行ったところ、被相続人名義の預金口座から出金した現金であったとの回答があった

税務調査中に話した内容をこのように記録してあり、最後に読み上げて、問題がなければ「相違ございません」と納税者がサインをします。
質問応答記録書には、税務署の署内に作成の手引きがあります。たとえば「質問に応答しない場合には、応答しなかったことを書いておく」などと作成の仕方が書いてあるわけです。
質問応答記録書は必ず作成しなければいけない書類ではありませんが、税務調査官が「重加算税を取りたい」と考えたときはほぼ作成されるものと考えたほうがよいでしょう。

記録される内容例

質問応答記録書に記録される内容の一例を紹介します。

■回答者に関する情報
住所、氏名、生年月日、回答を得た日時や場所
■質問内容と回答内容
税務調査官が質問した内容と納税者が回答した内容が記載されます。締めくくりとして、これまでの回答に訂正が有るか無いかを確認され、署名と捺印が求められます。
■質問者に関する記載
所属する税務署、役職、氏名が記載されます。

その場でサインはしない。交渉の材料にとっておこう

その場でサインはしない。交渉の材料にとっておこう

質問応答記録書は法律上、必ず作成しなければならない文書ではありませんので納税者がサインをする義務もないということです。当然、サインしないからといって、罰則もありません。
「これは任意の行政文書ですよね。署名捺印しなければならない義務、法律根拠はありませんから、現時点では署名捺印はいたしません。税務調査の終了時に、総合的に勘案して判断させてください」などと断りましょう。「熟慮して回答させてください」などでもいいでしょう。その場ですぐにサインするのは避けたほうが無難です。

■質問応答記録書を交渉の材料にする
税務調査が大詰めになってきたときに、「このグレーの部分をシロにしていただければ、質問応答記録書にサインします」などと、交渉のカードに使うことも可能です。

もし先にサインしてしまったら、どうすればよい?

もし、納得できない質問応答記録書に署名捺印してしまったら、内容を確認して修正してもらうようにしましょう。

■質問応答記録書の内容修正を拒否された場合
個人なら「保有個人情報開示請求書」を提出する、法人なら税務調査官に「修正する権利がある」と主張して内容を確認します。
税務調査の結果説明の際に提示してもらうのも方法の一つです。
確認する際には、「質問と回答が事実だったかどうか?」に注目してください。
たとえば、回答の中に、一般的には納税者が使わない税務の専門用語が混じっていたりすると、「税務調査官の誘導尋問で、自分が答えたことではない」と主張することができます。

■内容があまりに主張と違う場合
公務員による有印公文書偽造の可能性(刑法156条虚偽公文書作成等)に、強要して署名した場合には公務員職権乱用罪(刑法193条)にあたる可能性があります。

このようなワードが記録されていたら要注意

税務調査で最もペナルティが重い加算税は隠ぺいや仮そうがある場合に、課される「重加算税」です。
加算税のなかで最もペナルティが重く、税額のインパクトも大きく本税に対して35%もの加算税を支払わなければなりません。

参考1)税務調査で出てくる追徴課税や加算税とは何か?加算税の種類を徹底解説!

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参考2)加算税を最小にする修正申告とは?重加算税を避けるためのポイント

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重加算税は悪質(故意による過少申告など)である場合に課されるため、質問応答記録書により「故意」である事が記録で残ると、高確率で課されることになります。調査官から「少しは適正でないとわかっていたのではないか?」「後ろめたさがあったのではないか」など、ご自身の認識を「どちらかと言えばYES」に持っていく質問があった場合は要注意です。
質問応答記録書に認識があったと記録される事で、非常に不利になります。
そのため、質問応答記録書が書かれた場合は、次のようなNGワードが入っていないかも確認します。

【要注意ワード】
◦〜を仮装して
◦〜を隠ぺいして
◦意図的に〜
◦事実と異なると知りながら〜
◦不正の目的で〜

ご自身の認識と異なる場合は、安易に署名することなく必ず修正してもらいましょう。

またこちら側の税務調査の対応として、議事録をとることをおすすめいたします。税務調査は2週間で終わることもあれば、半年に及ぶこともあります。時間が経つと、いつ、何について、どんな発言をしたか?を正確に記憶することはできません。必ず議事録をつけるようにしましょう。

税務調査中にパソコンで議事録をとっていても止められることはありません。できれば、経営者・経理担当者・税理士による事前ミーティングの段階からすべて記録をとるようにすることが望ましいでしょう。

税務調査は議事録が重要。記録のために下準備の段階から議事録をとろう。

税務調査は議事録が重要。記録のために下準備の段階から議事録をとろう。

最後に、税務調査の理想は何事もなく、納得して終えられることです。ただし十分な知識を持ち合わせていなければ、そう簡単にはいきません。時に税務調査官の狙いや指摘したいことと納税側(経営者)が弁明したいことが噛み合わなかったり、場合によっては衝突を起こして難度の高い交渉事に発展する可能性があることも忘れてはいけません。

そんな時には、税務調査官への対応テクニック「アンカー」を使ってみましょう。

税務調査官への対応テクニック「アンカー」を使おう