税務調査専門税理士として、建設業を中心に様々な業界の税務調査に立ち会ってきた立場から申し上げると、税務調査で注意すべき点は業界ごとに共通のパターンや型が存在します。視点を変えると、税務調査当日、あなたの元に訪れるであろう税務調査官も鋭くそのポイントを突いてくるでしょう。
だからこそ、同じ業界での実例やデータ、経験値をたくさん持っている税務調査専門の税理士の方が、準備の段取りや的確なアドバイスを得ることができます。あなたが経営者として経験する初めての税務調査、隣にいる税理士は同じ業界での実績・経験はお持ちですか?この記事では税務調査110番が経験してきたさまざまな業界のうち、建設業、製造業、IT業、運送業、小売業、貿易業、不動産業、飲食業の8業界をピックアップ。各業界での税務調査における注意点についてポイントを紹介しています。
目次
建設業の税務調査の注意点とは?
建設業はキックバックやディベートが多い業界なので、この資金を捻出するために架空や水増しで外注費を計上することがありますが、認められません。
架空もしくは水増しの「外注費」は特に重点的にチェックされます。その他には下記の点が指摘されやすい項目となります。
●未完成工事の経費の一部を完成工事の費用として計上し、未完成工事支出金を完成工事に振替ている。
●工事の金額が大きい場合や赤字の場合には特に厳しくチェックされます。
●重層発注
業界にはまだ談合が残っているので、たとえばA社から請けた仕事をほとんどそのままの内容でB社に流した場合、A社とB社の請求書をチェックされ、重層発注と認められると否認される可能性があります。この場合、隠ぺい仮そうになります。
建設業の税務調査対応事例
建設業は比較的税務調査の入りやすい業種と言えます。業界特有の受注形態や税理士と契約していないにも関わらず、知識・経験が豊富な会計担当者がいないケースが多い事も要因となっています。
製造業の税務調査の注意点とは?
製造業の場合、自社の棚卸資産はきちんと計上していても、目に見えない外注先の棚卸資産は漏れがちです。
営業車で全国を回る企業などは、営業車に積んである棚卸さんについても確認します。
その他には下記の点が指摘されやすい項目となります。
●販売店のインセンティブを売上割戻にするのは認められません。
●機械や工場の内装などの修繕が生じる場合は、資本的支出にせず、修繕費にすると指摘されます。
●研究開発費は本来、資産として計上すべき部分を全額費用していないどうか確認されます。
製造業の税務調査対応事例
製造業を営むC社様の税務調査対応事例です。重加算税の疑いをかけられたまま案件が停滞している状態でお声がけいただき、税務調査110番で対応・解決しました。
IT業の税務調査の注意点とは?
IT業界はフェイズ毎にエンジニアを外注するケースの多い業界です。そのため外注費のなか給与なのかは厳しいチェックされます。
税務署としては、消費税や源泉所得税のこともあり、できるだけ給与にしたい気持ちがあります。
また、「事業者向け電気通信利用役務の提供」について、「特定課税仕入れ」とされ、消費税の計算でリバースチャージ方式という新しい計算方式で申告します。リバースチャージ方式で消費税納税額が多くなる可能性があるので、対応しているかどうかは確認されます。
課税売上割合が95%以上の会社、また簡易課税制度が適用される会社については対象外です。
IT業の税務調査対応事例
IT業界はフリーランスや外注、グループ間取引など不透明な点が多く、定期的に税務調査のメインターゲットとなります。日夜業務ボリュームの多い業種でもあるので自分で税務調査対応を行う事は大きな負担にもなります。
運送業の税務調査の注意点とは?
運送業は業界特有のポイントを突かれやすい傾向にあります。
例えば軽油引取税。基本的には消費税対象外なので、課税取引で扱ってないかどうか確認されます。
他には法定資料との整合性を問われるケース。車が持ち込みだからといって外注費にしていいとは限りません。会社が指揮・命令している場合には給与と車の賃借料を考えることができます。
車両の修繕費が発生している場合は資本的支出になる部分はないかどうか確認されます。
小売業の税務調査の注意点とは?
小売業は人手の多い業界傾向にあります。アルバイトの人数が多いため、架空の人件費が含まれていないかどうか確認されます。
売上の面ではきちんと計上され売上割戻しがないか、すなわち経営者のポケットに入っていないか確認されます。
また、広告宣伝用の棚などをもらった場合、いったん資産計上するか、一部費用で落とすか、きちんと認識しているか確認されます。
見落としがちな点としては5万円以上のレシートに印紙は貼っているかなどが確認されます。
貿易業の税務調査の注意点とは?
貿易業はアンダーバリューによる売上除外の有無について確認されます。
荷物に価格を書く際、安い金額で税関を通していないか。またアンダーバリューに対応して売上を減らしていないか確認されます。
他には海外にある在庫は計上漏れしていないかは確認されます。
不動産業の税務調査の注意点とは?
不動産業の場合は取引内容の正当性を重点的にチェックされます。
例えば建売事業の場合、土地の値段の割合を増やして建物の消費税の納税額を減らしていないか。土地割合の過大計上をしていないかなどが該当します。
元の金額と実際に販売した金額の資料と整合税がないと隠ぺい仮そうになります。
他には土地転売などを行っている場合は仮そう売却によって含み損を実現させていないか確認されます。
賃貸用物件を取り扱っている場合は修繕費として計上されたうち、資本的支出の部分はないか確認されます。
飲食業の税務調査の注意点とは?
飲食業の場合は非正規雇用、現金商売の割合の高い傾向があります。
アルバイトの人数が多いため、架空の人件費が含まれていないかどうか確認されます。
また、まかないが無料の場合、源泉所得税を徴収しているかチェックされます。
収支の面では売上を一部除外してないか、仕入れ担当者や経営者が受けたバックリベートは計上されているか確認されます。
飲食業の税務調査対応事例
飲食業を営むO様の税務調査対応事例です。手元に売上資料がほとんど残されていない状況でご依頼いただき、税務調査110番で対応・解決しました。
(番外編)同族関連会社の注意点とは?
同族関連会社がある場合、同族間の業務請負等の取引に注意する必要があります。所得を分散して法人税の減額や一方が消費税の免税事業者または簡易課税だったりすると、消費税の納税額を減らすために請負契約をすることがありますが、これらは否認される可能性があります。
寄付金にも注意が必要です。100%出資の親会社・子会社だとグループ税制があるために、寄付金という発想はありませんが、そうではない場合、たとえば従業員が少しだけ㈱をもっていたり、片方の会社に親族ではない場合には、業務請負自体が架空とみなされ、寄付金として否認される可能性があります。
また、出向先で役員になって、賞与が出た場合、事前確定届出給与を出していない場合は否認されるので注意が必要です。