会社の経営をしていると毎年決まった時期に行うのが、「役員報酬」の設定でしょう。役員構成でも、代表一人の場合と複数の役員がいる場合では、役員報酬の中身を決めるプロセスや理由も各社様々です。そのような違いがありながらも、役員報酬は、定期同額給与の要件を満たして運用する必要があります。この記事では税務調査で細かく見られる役員報酬の運用をテーマに解説します。

役員報酬は、定期同額給与が税務上の基本

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役員報酬は「定期同額給与」であることが原則です。
役員報酬の改定を行う際に定期同額給与であるとみなされるためには、次の要件を満たす必要があります。

①期首から原則3ヶ月以内に行う改定であること(3月決算法人なら6月末まで)
②事業年度内において、改定前の毎月の支給額が同額であること
③事業年度内において、改定後の毎月の支給額が同額であること

よくあるのが「思ったより利益が出てしまったので、役員報酬で調整しよう」と考えるケースです。
この場合、たとえば4月から12月まで同じ額を払っていたのに、3月の決算間際に「7月から変更したことにしよう」と、未払いの報酬を4月〜翌3月まで30万円ずつ立てようとする経営者もいますが、この場合、12月の源泉所得税の金額や年末調整の金額がずれてしまいます。

役員報酬の改定は、やはりきちんとルールに則って改定するべきと言えるでしょう。
役員報酬を増やすと、法人税の納税額が下がりますが、制度の趣旨からして認められません。
税務調査では必ず指摘されます。

給与と役員報酬は税務上、何が違うのか?

従業員に支払う「給与」が全額損金算入できる事に対して、「役員報酬」は一定の条件を満たさなければ損金に算入する事ができません。条件を満たさない役員報酬は損金不算入となります。

≪損金算入できる役員報酬の条件≫
①定期同額給与
②事前確定届出給与
③利益連動給与

利益連動給与は中小企業での導入が難しいため、実質的には定期同額給与か事前確定届出給与でなければならないという事になります。

定期同額給与とは何か?

役員報酬で最も一般的なものは「定期同額給与」になります。
定期同額給与の主な要件は下記の通りです。

・支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与である事
・事業年度の各支給時期における支給額が同額である事

例えば、3月決算の会社の場合、4月から翌年3月までの12カ月の支給時期における支給額が同額である給与をいいます。

役員報酬の減額が認められる場合とは?

定期同額給与が基本ですから、期の途中で役員報酬を下げることはできません。
たとえば、「一時的な資金繰りの都合」や「単に予算を達成できなかった」というケースでは、役員報酬は期首から原則3ヶ月以内に決めた額を支払うことになります。ただし、役員報酬の減額が認められる可能性があるケースもあります。

≪役員報酬の減額が認められる一例≫
①銀行との間で、借入金の返済期限延長や条件緩和(リスケジュール)をするため、役員報酬を減額しなければならなくなった。
②業績や財務状況、資金繰りが悪化したため、取引先等からの信用を維持・確保するために、役員報酬の減額を盛り込んで経営改善計画を策定した。
③主要取引先の経営悪化により、現状では自社の売上等が悪化しているとは言えないが、数ヶ月後には激減することが避けられない状況が生じ、役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避である場合。
④主力製品に瑕疵があることが判明して、今後多額の損害賠償金やリコール費用の支出が避けられない場合。
⑤役員が病気等による職務の執行が一部できなくなった場合。

役員報酬を改定するには?

役員報酬を改定するには「事前確定届出給与」を提出する必要があります。
この届出をすると、役員にも賞与を支給することができます。注意すべきは提出期限です。「株主総会から1ヶ月を経過する日」か「事業年度開始から4ヶ月を経過する日」のいずれか早い日になります。
たとえば3月決算(事業年度開始が4月1日)で株主総会が5月25日にある場合、次のようになります。

【A】株主総会から1ヶ月を経過する日……6月25日
【B】事業年度開始から4ヶ月を経過する日……7月31日

この場合、【A】6月25日のほうが早いので、期限は6月25日となります。なお、税務署は法人税の申告書にある「決算決議の日」で株主総会の日を把握しています。

役員報酬額が適正か、税務調査官が見るポイントとは?

税務調査では、役員報酬額が適正かについてもチェックされます。なかなか難しい判断になる項目ですが、基準例としては以下の通りです。

≪役員報酬適正額のチェックポイント≫
①類似法人の最高額・平均額
②他の役員・従業員とのバランス
③勤務時間
④ 売上高の増加を基本として、売上利益率の増加を加味したもの
⑤職務内容
⑥前期との比較

1つずつ具体的に解説します。

①類似法人の最高額・平均額
最高額か平均額か、どちらを選択するかは難しいところですが、税務署が主張するのは平均額です。ただし、納税者の立場から考えると、平均額の場合は過半数の会社が適正額ではないと言えるものです。そのため、最高額を基準にしても認められないわけではないと考えられます。また、類似法人の定義もあいまいです。同地域、同業種、同規模であればよいでしょうが、比較対象を適切に選定するのは簡単ではないでしょう。

③勤務時間
経営者は従業員ではないので、給与のバランスを見たり、勤務時間は関係ないのですが、税務調査官の持つ価値観などにも左右される項目です。

⑥前期との比較
前年の役員報酬との比較については、法律にはありませんが一般的には「倍半基準」という基準があります。比較して2倍または半分以上の大きな変動幅になっている場合は特に注意して見られると考えられます。この倍半基準を視野に入れながら役員報酬を変えていくとよいでしょう。

役員報酬の適正額は、結局のところ「比較」です。他の役員や従業員との比較や、前年の役員報酬との比較など、わかりやすい基準が用いられます。