税務職員が調査に来たとします。彼らは,質問検査権を自由に行使できるのでしょうか。また,その行使を拒むことは全く許されないのでしょうか。
今回は,質問検査権を行使する際の要件など,判例においてどのように解されているのかについてお話します。
目次
質問検査権の裁判例について
質問検査権に関しては,その行使が違法だとして,国家賠償請求訴訟や更正処分の取消し訴訟など,色々と裁判例があります。
しかし,質問検査権の行使が違法だったと認めた裁判例はほとんどありません。それは,質問検査権の意義についての最高裁判例が,緩やかな解釈を採っているからです。
所得税、法人税、消費税等に関する質問検査権等は,国税通則法74条の2から74条の7において定められていますが,「調査について必要があるとき」に,「質問し,帳簿その他の物件を検査し,当該物件の提示若しくは提出を求めることができる」ことと,「物件を留め置くことができる」旨が定められているだけです。例えば,本人でなく関係者に質問する場合に,本人の許可を要するのかどうかなどは,規定されていません。
このように,質問検査権等の範囲や程度などについては,法律には具体的に定められていないのですが,「その実施の細目については,質問検査の必要があり,かつ,これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り,権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解され,調査の理由や必要性の具体的な告知も法律上一律の要件とされていない」(最高裁昭和48.7.10)という解釈が最高裁の採った判断ですので,これに照らして調査の適法性を考えていくことになります。
質問検査権等の行使の前提について
質問検査権等の行使の前提は,「〇〇税に関する調査について必要があるとき」です。
「調査の必要性」については,調査官が調査時に調査理由を具体的に言わず,調査の必要性を納税者に明らかにしないことは違法であり,更正処分は違法だと納税者が主張する裁判も多くありました。
しかし,先ほどの最高裁が、「調査の理由や必要性の具体的な告知も法律上一律の要件とされていない」と判示したことから,調査の必要性や理由についても「〇〇税の確認」という説明で足りるという判断がほとんどになっています。
最高裁の判断は、法律では、調査の際に「××しなさい(例えば、調査の理由を告知しなさい)」などと規定していないのだから、規定のないことに対して違法とはいえない、というものでした。
なお、調査行為の具体的な内容については規定がないとしても、調査官の「合理的な選択」によることとしていて、一応、行為の合理性という制限を加えています。簡単に言うと、申告義務が適正に行われているかの確認のための行為として選択したものであればよい、ということになります。そのためであれば、取引先や銀行などへの調査や関係者への質問等についても、納税者から事前に承諾を取らなかったとしても、違法にはならないということです。
そして、もう一つ、そこには「相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り」という制限が付けられています。
この制限については、また次回とします。