1 はじめに

パチンコ店等を経営する法人3社(それぞれ資本金1億円以下。以下「原告ら」といいます。)が法人税等の税務調査を受けました。

その際、原告らの代表取締役または実質経営者であるAが複数のクラブで支出した飲食代金の一部について、接待交際費ではなくAへの貸付金へと修正する内容の修正申告が行われました。

しかし課税庁は、取引先等を接待していた事実がないにもかかわらず交際費として総勘定元帳に記帳していたことなどが、国税通則法68条1項に定める「隠蔽または仮装」に当たるとして重加算税を賦課しました。

これを不服とした原告らが、処分の取消しや調査の違法に基づく損害賠償を求めて訴訟を提起したのが本件(東京地判令和2年3月26日、控訴審:東京高判令和3年1月28日)です。

裁判において原告らは、「修正申告は関与税理士Bにより無断で提出されたものであり無効である」と主張したほか、「飲食代金の支出は交際費に当たるため仮装・隠蔽はなかった」などと訴えました。

しかし裁判所は、修正申告は有効であり、当該支出は交際費に仮装して損金計上されたものであるとして重加算税賦課決定処分を適法と判示し、控訴審でもこの判断が維持されて確定しました。

2 東京地裁令和2年3月26日判決(税資271号-13順号13515)

⑴ 調査の状況

本件は、税務調査を契機として接待交際費に関する各修正申告(以下「本件各修正申告」といいます。)がすでに提出されていたため、法人税等の本税自体は争えず、修正申告により増加した税額を基に賦課された重加算税等の適否を争った事件です。

調査の初日、調査担当者に対して代表者Aは、交際費として計上した銀座のクラブ4店舗への支出について「事業展開のために費消した」と説明しつつも「接待先は教えたくない」と回答しました。

そこで調査担当者は各クラブへ反面調査を実施し、入手した資料からAの利用状況を把握したことで、交際費が個人的な飲食代金ではないかという疑いを強めました。

なおAは、各クラブで個人名義のクレジットカードで支払ったうえで原告らのうち1社を名宛人とする領収書の発行を受け、原告らはその領収書と引き換えにAへ支払を行い、総勘定元帳の交際費勘定に計上していました。

反面調査の結果を踏まえて調査担当者から指摘を受けた後、関与税理士Bは、個人的な費消分(以下「本件各支出金額」といい、3社4事業年度の合計で約6,607万円)を抽出した一覧表(書面C)を作成・提出しました。

その後のやり取りを経て、本件各支出金額は接待交際費や役員賞与ではなく「Aへの貸付金」とし、貸付金に対する未収利息を計上する形で本件各修正申告が行われました。

なお、調査時に作成された質疑応答記録書においてAは、各クラブの領収書が実際は自分一人で利用した際のものであることや、交際費枠の上限を使い切る目的で3社に費用を振り分け、各店に依頼して会社名を記載した領収書を作らせていたことなどを認めていました。

⑵ 判決要旨

イ 本件各修正申告の有効性

税理士Bが作成した書面Cについて、税理士BがAへ報告した際に異論が出なかったことや、申告内容・税額についても事前に説明がなされていたことから、本件各修正申告はAの了承を得て行われた有効なものであると認められました。

ロ 重加算税の適法性

まず本件各支出金額がAの個人的な飲食代金であるか否かについて、裁判所は以下の諸点から総合的に判断し、そのすべてがAの個人的費用であったと認めるのが相当であると結論付けました。

クラブの1回当たりの利用額が20万円を超え、月に5回程度という高い頻度で利用されていたにもかかわらず、業務上の必要性について合理的な説明がなされていませんでした。

また、Aには特定の贔屓にしているホステスがおり、その移籍に合わせて店舗を変えながら同伴出勤やアフターを重ねていたことからも、利用目的が事業関係者の接待ではなく個人目的であったことが強く疑われました。

さらに、店舗側の売上集計表やA自身の質疑応答記録書においても、ほとんどの場合で「一人で利用していた」ことが裏付けられていました。

次に事実の仮装・隠蔽に基づく申告の有無について、本件各支出金額は明らかに損金算入できない個人的な費用です。

それにもかかわらず原告らは、会社名義で作成させた領収書を基に交際費として記帳した総勘定元帳を作成し、損金算入して確定申告を行いました。

これにより、法人税等の課税標準の計算の基礎となる事実を仮装し、それに基づいて納税申告を行ったものと認定されました(修正申告に伴う貸付金利息の計上漏れについても同様に仮装・隠蔽が認定されています)。

3 本件判決の検討

本件判決は、総勘定元帳に交際費に当たらないものを交際費として計上したことを捉えて「事実の仮装・隠蔽」に当たると判断しています。

仮にこれが「総勘定元帳の意図的な記載誤りはすべて事実の仮装・隠蔽に該当する」という解釈に基づくものであれば、その判断には疑問が生じるという批判もあり得ます。

本判決において仮装・隠蔽の厳密な意義が示されず簡略な判断にとどまった背景には、原告側の訴訟戦略が一因であったと考えられます。

原告側は「修正申告が無効であること」や「クラブへの支出は接待交際費であり申告は正しいこと」を主要な争点とし、さらには調査や裁決の違法性まで幅広く争ったため、どのような場合が仮装・隠蔽に当たるのかという本質的な議論が深まりませんでした。

課税庁側も「事実がないのに交際費として虚偽記載した」と主張するのみで、原告側から「総勘定元帳への虚偽記載だけで仮装・隠蔽と言えるのか」という論理的な反論はなされませんでした。

原告側としては、1人飲みの費用であっても決定的な証拠がないと踏んで「接待交際費である」という主張にこだわったのかもしれません。

しかし、取消しを求めているのは重加算税なのですから、修正申告を受け入れたうえで「単に交際費の解釈を誤って計上したに過ぎず、損金性のない支出を記帳した事実だけをもって直ちに仮装・隠蔽とは言えない」という方向に争点を絞る選択肢もあったと考えられます。

ただし本件では、判決文上で直接の根拠として挙げられてはいないものの、仮装・隠蔽を裏付ける事実が複数存在していました。

例えば、損金算入限度額に合わせて3社に領収書を振り分け作成させていた点、総勘定元帳の摘要欄に不自然な同行者氏名を記載していた点、また原告側に有利な陳述書を提出したクラブ関係者の証言の信用性に重大な疑問があった点などです。

これらは、本来であれば重加算税の根拠事実として明確に認定されるべき要素であったと言えます。

4 交際費該当性と重加賦課要件

本件の控訴審(東京高判令和3年1月28日)において原告側は、「様々な者と交流することは人脈を広げるために必要である」と主張しましたが、裁判所は「単に人脈を広げるという抽象的な必要性のみでは交際費とは認められない」と蹴り飛ばし、接待の相手方や業務関連性に関する具体的説明・立証がないとして主張を排斥しました。

事業関係者を伴わない飲食は交際費として認められません。交際費該当性が争われた場合、課税庁側による不該当の立証だけでなく、納税者側においても業務関連性を具体的な証拠で反証できなければ認めてもらえないのが実務の厳しさです。

また本件判決は一見すると、「交際費に当たらないものを総勘定元帳に計上し申告しただけで重加算税の要件を満たす」と判示したようにも読め、課税庁側にとって非常に好都合な判断に見えます。しかし前述のとおり、本件は「虚偽記載のみで仮装・隠蔽と言えるか」という点が法的に争われておらず、実際には個人の飲食代であることが明白であり、実態を隠蔽・仮装するための工作が多分に行われていたという個別事情を踏まえた判断であると理解すべきです。

したがって、本判決を「総勘定元帳への誤記=即座に仮装・隠蔽」と単純に解釈することはできません。もっとも、裁判所は当事者の弁論の進め方次第でこのような判断を下すこともあるため、実務において判決事例を読み解く際には十分な注意が必要です。