税務調査後に、税務署長等の行った更正処分などに対しては、不服申立てとして、再調査の請求又は審査請求のどちらかを行うことができます。今回の記事では、審査請求の概要、流れについて詳しく解説します。
目次
税務調査後の審査請求とは
審査請求は、処分のあったことを知った日(通常は、処分の通知書が届いた日。)から3カ月以内に、国税不服審判所長に対し、審査請求書を提出して行います(通法77①)。なお、再調査の請求を行い、その決定後に審査請求を行う場合は、その決定から1カ月以内に行う必要があります(同条②)。
国税審判所は、各地に支部を設けており、審査請求は、原則として、自分の納税地を管轄する各地の審判所に提出しますが(例えば東京国税不服審判所や大阪国税不服審判所など)、処分をした税務署等に提出してもよいことになっています。
訴訟は、審査請求を経ていなければ提起できません(通則法115①)。ただし、審査請求が不適法であるとして却下の裁決があった場合は、審査請求を経たとはいえないので、審査請求の対象とした処分について訴訟を提起したとしても、通常は、不適法な訴えということとなります。
国税不服審判所とは
国税不服審判所とは、国税庁の下部機関となりますが、国税局や税務署のような税の賦課徴収の執行機関ではなく、不服申立てを専門に扱う第三者的機関として位置づけられています。
不服申立てについて裁決を行う審判官も、裁判官、検事、弁護士、公認会計士、税理士などからの任期付き採用者が半分を占め、迅速、公平な裁決を行うこととしています。
とはいっても、納税者の不服申立てが認められて、原処分が取り消された割合は、例年10%前後となっており、簡単には処分は取り消されないのが実情です。
弁護士等の外部採用の審判官から、苦情に過ぎない事案も多いという感想もあったようです。課税処分等を争う場合、和解はなく、白か黒かの判断となるので、処分そのものの法律上の違法性を主張立証できなければなりません。単に感情論や苦情に留まるような理由を言うだけでは、納税者の権利救済を使命とする審判所でも如何ともし難いこととなります。
税務調査における審査請求から裁決までの概要
国税審判所の事務運営の目標として、審査請求から1年以内に裁決することとしています。却下の場合は短期間で裁決がありますが、通常は1年近く判断が出ないこととなります。
様々な手続きは書面でやり取りしますが、書面の提出の求めなどの必要な作業の都度、審査請求の担当者から、電話でも接触があります。
1.審査請求書の記載
審査請求書の「審査請求の理由」の欄には、課税処分等が違法である理由を、事実関係を明らかにする証拠を添えて主張します。後から、詳細に主張することや追加で証拠を提出することもできますが、なるべく具体的に違法だという理由を記載し、根拠となる証拠を提出します。
審判所は審査請求書の写しを原処分庁に送付し、原処分庁は、これに対し、原処分の処分理由と、審査請求人の請求の理由に対する反論を記載した答弁書及び事実関係の根拠となる証拠を審判所に提出します(通法93、通法96)。
2.答弁書に対する反論書及び証拠の提出
審判所は、原処分庁が提出した答弁書を審査請求人に送り、当該答弁書に対する反論書を審判所に提出するよう求めます(通法95)。なお、証拠は送られてきません。
請求人は、反論書に、その答弁のどの部分がどのように誤っているのか、また、処分がなぜ違法なのかについての理由を補充するなどして、審判所に期限内に提出しなければなりません。
審判所へは大体1カ月程度の期限内に提出を求められます。
自分の主張を根拠づける証拠も提出できます(通法96)。その場合は証拠説明書も一緒に提出することを求められます。
3.証拠の閲覧
裁判であれば相手方が提出した準備書面や証拠の写しが送られてきますが、審査請求では証拠の写しは送られてこないので、証拠の閲覧を求めて証拠の確認をすることとなります(通法97の3)。
反論書も、証拠の閲覧を済ませてから作成し提出するということも許されないわけではないので、反論書の提出期限については、そのようなことをふまえて、担当の審判官と日程の協議をしていきます。なお、証拠のコピーを郵送してもらうこともできますが、コピーは有料です(1ページ10円)。閲覧に出向いて、コピーの代わりにカメラ撮影をすることもできます(無料)。
4.裁決までの請求人の作業
上記2,3の実施については法の規定がありますが、審判所が運営上行っていることもあります。
例えば、審査請求後の早い時期に、争点を明確にするために、審判官との面談や電話での意見聴取が行われています。また、同席審理と称する面談もあり、原処分庁の者も呼んで、審判官が両者から主張を聞くこともあります。
そのほか、両者の主張立証が尽きると双方の主張を記載した「争点の確認表」が作成され、これについて、誤りがないかどうか確認を求められます。「争点確認表」はそのまま裁決書に記載されて、記載された点について判断が行われます。そこに記載されていない主張については判断がされないことになるので注意が必要です。
5.裁決
1年以内に裁決が行われることがほとんどですが、訴訟を急ぐ場合は、裁決がまだされていなくても審査請求から3カ月を過ぎた時点で訴訟を提起することもできます(通則法115①一)。
6.代理人
審査請求における審判所との対応について、代理人を立てて全てを任せることもできます(通法107②)。代理人には資格はいりませんが(通法107①)、処分は違法だったということについて、証拠を基に、判例や学説をふまえた主張立証を書面で行う必要があり、また、審査請求は、裁判手続きの簡易版のような仕組みになっているので、そのような作業の経験やスキルを持っている税務調査専門の税理士や弁護士が対応していかなければ、処分を覆すことは困難です。また、訴訟も辞さないというならば、審査請求の段階から、それらの資格者の能力を活用し、訴訟に備えるべきです。