税務調査は交渉する事で、結果に差が出るのか?実は交渉の成否が結果に大きな影響を与えます。しかし、ほとんどの経営者にとって税務調査はじめての体験となるため、豊富な経験値やものさしを持ち合わせていません。そのため、交渉の手法を誤り損失が大きくなるリスクをはらんでいます。
よくあるトラブルが、税務調査官との交渉時に、相⼿を⾔い負かそうと敵意をむき出しにし調査官と勝負してしまう事です。税務調査を最善の結果でスムーズかつスマートに終わらせるために、経営者は税務調査官とどのように向き合うべきか?そのポイントについて、この記事で解説します。
目次
交渉で金額は変わるのか?
税務調査では様々な経理処理上の問題点が指摘されます。
しかし指摘された事項についてすべて受け入れて修正申告をする必要はありません。
なぜならその中には経費を二重に計上していたというような明らかなミスの他に、根拠があまり明確ではない指摘も含まれているからです。
例えば社用車が高級外車で個人的趣味が入っているため会社の資産計上は認められないであるとか、接待交際費が高すぎるのではないかといった指摘です。高級外車であっても、業務以外に使用していないという証拠を揃えれば認められますし、接待交際費に関しては設定されている上限額を超えず、事業を進める上で必要だったと証明できれば否認されることはありません。
調査官側としては、納得して修正申告してもらえるに越したことはないという考え方ですので、納得が行かない場合は交渉の余地があるということです。
国税庁の資料によれば平成26事務年度の追徴課税額は670億円、1件あたりに換算すると540万円になります。
この中には交渉を全くせずにそのまま修正申告をして、本来納めなくてもよいものも含まれているのです。
税務調査官と相互勝利を⽬指す
税務調査の最善のゴールとは何でしょうか?それは双方の価値の最大化による相互勝利を目指すことです。
追加の税金を取られたくない一心で、ついつい相手を言い負かすことに感情が動いてしまいがちですが、これでは勝ち負けになってしまいます。仮に自分が勝っても相手が負けてしまいますから、調査官からすると「なにくそ!」「絶対に次こそは!」と、さらに調査が厳しくなる可能性があります。
自分の価値を増やしながら、相手の価値も増やす。この価値の最大化を目指す必要があります。お互いの価値の最大化を目指すベースとなるのは相手との信頼関係です。税務調査官と信頼関係を結ぶことで相互勝利に向けての糸口を見つける事が出来ます。
【調査官と信頼関係を築く対応】
①真摯な態度で対応する
②求められた情報をごねずスムーズに提供する
③軽い雑談などで和やかなムードを作る
こちらが譲歩したい事があれば、その点を明確にして強調することも必要です。話をしながら相手の価値観や優先順位を把握し、相手の立場に立った姿勢を見せる事で税務調査もスムーズに進んでいきます。
税務調査を最短で終わらせるための交渉の進め⽅
経営者と税務調査官の双方が期待する共通の価値は『税務調査を早く終わらせる』ことです。
経営者にとっては一刻でも早く経営の現場に戻り新たな利益を作ることが何より有益ですし、税務調査官も自身が抱える目標件数をこなすために一件あたりの税務調査にかける時間は短くしたいというのが本音です。税務調査を最短で終わらせるためには事実を白・黒・グレーの3つに分ける事が大切です。
白・黒・グレーについての詳細は「税務調査にある白・黒・グレーの3分類」でお伝えしてますが、大まかに分けると下記の通りです。
■白(税務上問題ない)
例)税務上、適正な経費など
■黒(税務上問題あり)
例)事前確定届出給与の支給額の相違など
■グレー(判断が分かれる)
例)不動産管理会社への支払手数料など
まずは、事前に申告書などの内容を精査し議論するべき内容と、そうでない内容を明確にしておくことで、調査に掛かる時間を大幅に短縮する事ができます。
時間をかけるべき論点に対する有効な交渉術
白・黒・グレーの3つへの振分けができたら、実際に税務調査の中で話を進めていく順番にも抑えておきたいポイントがあります。理想の順番は[白➡黒➡グレー]の順で進める事をおすすめします。
白は特に論点となりません。黒は経営者にとって不利な項になるので揉めてしまいがちですが、法律に照らし合わせて、明らかに適切でないものなので覆る可能性はほとんどありません。さっと認めてしまい次の論点に移った方が労力・時間共に削減でき得策と言えます。
グレーは解釈によって適正か否かが変わるので交渉に最も時間の掛かるパートです。最初にグレーから入ってしまうと税務調査が長引いてしまうので、白と黒が片付いた後でじっくり交渉することが基本となります。グレーの交渉を行う際は後述のピラミッドストラクチャーを作成しておくことで、議論をスムーズに進める事が可能です。
ピラミッドストラクチャーとは何か?
ピラミッドストラクチャーとは議題に対して頂点に伝えたい結論を置き、その下に結論の土台となったキーメッセージ、さらにその下にキーメッセージの根拠となる情報を置く事で結論までの道筋を図形化しわかりやすくしたフレームワークの事です。
例えば「不動産管理会社への支払手数料の金額は適正か?」という議題を解決したい場合、経営者としては適正な金額と認められ経費に含めたいというのが本音です。金額が適正と認められれば経費(白)、認められなかった場合には損金不算入(黒)となります。
グレーを白と認めてもらう交渉を行うためには、税務調査官が納得する根拠を揃えて「白である」という結論の妥当性を示す必要があります。主観のみを束ねた根拠では税務調査官が納得する事はありません。法律や判例、学説など客観的な情報により結論の妥当性を示す事が重要となります。
ピラミッドストラクチャー活⽤メリット
ピラミッドストラクチャーを作成することで下記の利点を得ることができ、交渉を有利に進めて価値の最大化を図ることできます。
【ピラミッドストラクチャーのメリット】
●経営者自身の頭の中が明確になり相手に伝えやすくなる。
●税務調査の際に交渉の資料として調査官に提示する事で、お互いの納得につながる。
●グレーをより明確に黒・白に仕分けることに繋がり交渉の時間が減る。
ピラミッドストラクチャーの作成にはやや時間や知識が必要なものの、『税務調査を早く終わらせる』という双方の利点に与える効果は大きいので、ぜひ、作成することをおすすめします。
ピラミッドストラクチャーを税理⼠に依頼しよう
ピラミッドストラクチャーの要となるのは、頂点の結論ではなく土台となる根拠になります。「こうしたい」「こう思う」よりも、その結論に至った客観的な「根拠」が重要となります。根拠を積み上げるには法律や判例、学説などの情報収集が不可欠です。
インターネットや書籍などで情報を整理してピラミッドにしていく事も可能ですが、時間も掛かりますし、向き不向きもあります。特に法律や判例の解釈には専門知識の有無で考え方の範囲が大きく変わります。この分野に精通しているプロが税理士です。
税理士に日々の税務関係を依頼されている方はもちろん、顧問税理のいない方でもピラミッドストラクチャーの作成だけでも税理士に依頼する事で税務調査を有利に進める可能性が大きくあがります。
本項を見て難しそうだなと思われた方は、ぜひご検討されてはいかがでしょうか?
税務調査は「事前準備」が全て
税務調査の結果や調査に掛かる時間などを含めて双方の価値の最大化を図れるかどうかは、事前準備にかかっているといっても過言ではありません。
まずは、白・黒・グレーを明確に分ける事で論点を洗い出して税務調査の議論の流れを整理し、グレーを根拠なく黒と判断されない様にピラミッドストラクチャーを作成して主張の土台となる根拠を固めて置くこと。
この過程ができていないとグレーの事案に対して感情的に白黒を争い、必要以上の時間が掛かる結果となり、双方にとっての価値の最大化とは真逆の方行に進みかねません。
税務調査を乗り切る為には、これら事前準備をどれだけ妥協なく行えたかが成否の分かれ道となります。
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