税務調査の対応には、テクニックや交渉術に興味・関⼼がいきがちですが、交渉現場の基本中の基本は、座るポジションからです。

ただの「席順」と思えばそれまでですが、どのポジションで対話するかで、相⼿の⼼理状態も変わります。税務調査の結果にも影響する場合もあるのでポイントを押さえておきましょう。

・調査官の座る場所によって有利にも不利にも働く
・事務者や自宅のレイアウトにも細心の注意を
・調査を切り抜けるには会話術も必要

「税務調査は書類を見るだけじゃないの?」と思いがちですが、ほんの些細な事が結果に影響するのが税務調査です。
税務調査110番コラムでは、中小企業の経営者に税務調査に対する基礎知識を持ってもらい、「安心して税務調査を受け、納得感を持って終わる」ということを目的に税務調査の傾向と対策を コラムを通じてお伝えしていきます。

⼀般的な席順マナーと税務調査時の席順は何が違うのか?

一般的なマナーではお客様にあたる税務調査官を上座の席に案内する方が良いのでは?と思いがちですが、税務調査ではその席順が必ずしも上席への案内がベストとは限りません。

まずは、一般マナーと調査にプラスになる税務調査流マナーを比較してみましょう。

『一般的なマナーの上座』
・入口から遠い方にあたる席
・ソファーとひじ掛椅子の場合はソファ
・絵画や写真などが飾っている場合は、絵を正面から見ることのできる位置など

おそらく事務所でも自宅でも来客の際には上の様な配慮をされている方は多いかと思います。

『税務調査流マナーの上座』
・入口から遠い近いはこだわらない
・調査官にはソファーよりもひじ掛椅子
・正面に窓や装飾、動く物のない壁しか見えない位置

一般的なマナーと比較すると正反対とも取れるポジションではないでしょうか。
なぜ税務調査では税務調査流マナーが適しているといえるのか?

それは税務調査官にとってのベストは「調査に集中しやすい環境かどうか」がポイントとなるからです。

調査官が集中できる事で調査の時間を短く済むことにつながります。

調査が短く済めば、その分の時間を本業にあてて利益を作ることができるので経営者としてはいかに税務調査の時間をコンパクトに収めるかは押さえておくポイントと言えます。

税務調査官の席は、どう決めればよいか?

調査官が税務調査に集中しやすい環境として押さえておきたいポイントは「できるだけ余計なものが目に入らないポジション」です。

調査当日は下記の条件が整った席に調査官を案内しましょう。

『見えるものが極力少ない空間』
例えば事務所の一角やオープンスペースなど事務所全体が見渡せる場所はNGです。人の動きや電話の声が入ると調査に集中できず、調査時間が長引く要因となります。可能であれば壁で区切られた別室が好ましいでしょう。調査官の正面には机をはさんで壁しかないレイアウトがベストです。

『壁の掲示物にも注意!何もないが基本』
壁を正面にして座ってもらうポジションが準備できたら、今度は壁をよく確認しましょう。売上状況を貼りだした紙はもちろん、カレンダーも外しておきましょう。重ねてになりますが、ほんの些細な事が結果に影響するのが税務調査です。室内だけでなくエントランスやトイレまでの順路など調査官が通る可能性のある場所には、同様の配慮を行う事が好ましいといえます。

『調査は応接室より会議室』
税務調査は数年分の申告書や領収書など多くの書類を広げて行われます。そのため出来るだけ広い机を用意してあげると調査官にとって調査のしやすい環境となります。椅子も深く座り込むソファーよりも前傾で作業がしやすい椅子が向いているので応接室よりも会議室の設備の方が調査官にとっては効率的です。机の配置は調査官と向き合える配置がベストです。O型やコ字型で配置している場合にはI字型にレイアウトしておきましょう。

妻などの家族が取締役の場合、どのような席順が良いか?

税務調査では税務調査官の他に統括官(上席)が同伴して2~3名体制で調査に訪れるパターンがスタンダードです。

受ける側は経営者、顧問税理士の2名で受け構えるケースの他に、奥様が取締役等に入っている事で調査への立会を求められるケースがあります。

普段、あまり経営や税理士との打合せに奥様が参加していない場合は要注意です。ふとした発言が大事になりかねません。
この様な場合は調査官だけでなくこちら(納税者)側の座るポジションにも配慮が必要です。

『家族役員はあえて話しづらい席に』
女性に限った話しではありませんが税務調査の場でよく話しをする人と、ほとんど発言しない人の2タイプがいます。

後者であれば問題となる事は少ないですが、前者の場合は要注意です。
特に会話を行う調査官の正面や両隣に味方のいないポジションになると、心理的に多弁になってしまい話す必要のない事を口走ってしまい良くない結果に繋がる可能性があります。

その場合は図のように奥様を経営者、税理士、統括官で囲む形にして発言し辛い環境を作る事をおすすめします。

会議室がない場合、税務調査の当⽇はどう対応すればよいか?

ここまでのコラムで会議室や応接室での税務調査当日に調査官の座るポジションについてお伝えしてきましたが、そもそも会議室の様な対応スペースが用意できない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

実は税務調査の実施する場所については法律上明確な定めはありません。

通常は帳簿類を保管している場所が税務調査を受ける場所となりますが、前述のように調査を有利に進めるために望ましくない場合などの対処方法についてお伝えします。

『顧問税理士がいる場合は会計事務所の一角を借りる』
調査連絡があり場所の確保が難しい場合は契約している税理士の会計事務所でスペースが借りられるか交渉してみましょう。余計な書類や情報が出てしまう事もなく、味方である税理士が落ち着いて立ち会えるので優位に立ちまわる事ができます。

税理士との契約がない場合でも税務調査対応を強みにしている会計事務所に依頼する事で、スペースを用意してくれる場合があります。場所もなく顧問税理士もいない。申告にも思い当たる点がある場合は総合的に見て税務調査に強い専門家に頼る方が無難です。

『貸し会議室でも調査可能』
税理士からスペースの提供を断られた場合は貸し会議室で行う事も可能です。
ただし用意しておく書類が不足していると余計な時間が掛かり不利な結果となり兼ねませんので、事前に用意しておく書類を確認してしっかりと準備をしておきましょう。

やむを得ず自宅や事務所の作業場等で行う場合は、余計なものが調査官の視点や経路に入らない様に事前に片付けておきましょう。

また、家族や従業員の目につく所で調査官からの質問に答える状況は予想以上に自身の心理的不安が大きくなるだけでなく、従業員が「うちの会社、大丈夫?」と不安になる事もあるので予め安心させておく事も必要です。

税務調査当⽇に対応する税理⼠が座るべきポジションとは?

税務調査に立ち会うのが納税者と税理士、税務署側が調査官と統括官の場合が、税務調査においてはスタンダードな構造です。

これまでお伝えした事を踏まえた上で図の様な配置で案内する事がおすすめです。

『調査官と向かい合い、税理士は左に』
調査で質問をしてくるのは主に調査官(図左下)です。この時、納税者は調査官と向かい合う場所(図左上)に座る事がベストです。会話がしやすくなり税務調査がスムーズに進みます。

「え!会話が多いなら税理士が向き合った方がいいんじゃないの?」と思いがちですが、税理士が納税者ポジションに座っても質問は納税者に飛びますので、有効な手段とは言えません。

むしろ向かい合う事で「この納税者は調査にしっかり向き合っている」という印象を与える事ができるだけでなく、税務知識に秀でた統括官を税理士がけん制できる位置関係を自然に作る事ができます。

心理的に人は左(心臓)側に味方がいると安心する事ができます。税務調査で言えば左側に税理士がいる事で安心して調査官と向き合う事ができます。

『税理士の役目は共闘でなく調停』
税理士は国家ライセンスを持った民間事業者です。一緒に戦うというよりも、調停し納税者と調査官の価値を最大化つまりペナルティ税や隠ぺいではなく、税法に則った「適切な納税」に着地させる事が役割です。そのため、少し第三者的な視点となれる位置(右上)が適切です。

共闘を強みに謳う税理士事務所もありますが「税務調査には白・黒・グレーの3つがある」でもお伝えした通り、税務調査では一方的にグレー、黒を白だと主張するのではなく、グレーを白か黒かに適切に切り分ける事が、最良の結果となるポイントです。

税務調査を対決の形にしてしまうと白になるはずのグレーが黒になり兼ねないので、あまり良い方法とは言えません。とは言え、分からない事を税理士に聞く事はもちろん何の問題でもありません。

調査官の質問を正面で受け不安があれば隣りの税理士に聞くスタンスで調査を有利に進めましょう。