~法人の代表者以外の役員・従業員の横領(仙台高裁令和6年6月4日判決ほか)~

はじめに

国税通則法68条1項は、「納税者が……隠蔽し、又は仮装し」と規定しており、重加算税の賦課要件をあくまで「納税者自身の行為」としています。

では、法人の従業員などが隠蔽や仮装を行った場合、納税者である法人に対して重加算税を課すことができるのでしょうか。

この点について、法令の文言上は必ずしも明確ではありません。

実務上の一般的な解釈としては、従業員等の隠蔽・仮装行為が「納税者である法人の行為と同視できる場合」には、法人に重加算税が課されると考えられています。

例えば、法人の代表取締役や経営に参画している役員による不正であれば、たとえ他の役員が知らなかったとしても、実質的に経営を担う者の行為として法人の行為と同視され、重加算税が課されるのが通常です。

一方で、経営に参画していない役員や一般従業員が不正を行った場合は判断が分かれます。

従業員が管理者に気づかれないよう架空経費の計上や売上除外を行い、その資金を横領・詐取した場合、学説でも「重加算税を課せる」とする説と「課せない」とする説に意見が割れています。

「従業員が勝手に行ったことであり、しかも会社自身が金銭を被害として騙し取られている場合にまで、法人へ重加算税を課すのは行き過ぎだ」という意見(金子宏著『租税法』など)もあります。

しかし裁判例では、不正を防ぐための内部管理体制が十分だったか、不正を認識する可能性はなかったのかといった点を検証し、不正が法人自身の行為によってもたらされたと同視できる場合には、重加算税の賦課を適法とする判決(東京高裁平成16年1月29日判決など)も珍しくありません。

今回は、この「法人の行為と同視できる要件」の解釈を巡り、1審と2審で判断が大きく逆転した比較的最近の判例をご紹介します。
本稿では、領収書を紛失・破棄した状況下において、いかにして代替エビデンスを再構築し、当局の「推計課税」に対抗するか、その具体的スキームを解説します。

現在すでに税務署から連絡があり、「どう対応すればいいかわからない」「申告漏れを指摘されそうで不安だ」
という方は、一人で抱え込まず、すぐにご相談ください。

1. 仙台高裁令和6年6月4日判決の概要と1審判決

電気工事業を営む法人Xは、A社に対する外注費を損金に算入して申告していました。しかし実際には、Xの役員・従業員であった甲らとA社代表者の丙らが結託して行った水増し請求でした。

課税庁Yは調査を行い、甲に横領され個人的な遊興費に消費された金額に係る損失や損害賠償請求権の計上漏れを指摘して更正処分を行うとともに、架空外注費の計上による過少申告に対して重加算税の賦課決定処分を行いました。

Xはこれを不服として訴訟を提起しました。

1審の仙台地裁(令和5年12月25日判決)では法人Xが勝訴し、重加算税の処分は取り消されました。

地裁は、不正を行った甲らについて「営業活動の中心として経営に参画していたとは言えず、外注先の選定や外注費の決定権限も限られており、代表者に準ずる地位にあったとは認められない」と判断しました。

また、不正行為の認識についても「容易に認識できたとまでは認められない」とし、管理体制の不備を考慮しても甲らの行為を法人の行為と同視することはできないと結論付けたのです。

2. 控訴審(仙台高裁)での逆転判決とその理由

しかし、控訴審である仙台高裁(令和6年6月4日判決)で判断は一変し、法人Xは逆転敗訴しました。

高裁は、法人の行為と同視される要件について、現代の組織構造を踏まえた解釈を示しました。

相応の規模を持つ法人では代表者が事業の細部まで管理することは不可能であり、部門ごとに一定の権限と裁量を与えられた責任者が事業を遂行するのが常態であると指摘しています。

その上で、重加算税制度の趣旨に照らせば、代表者自身やこれに準ずる者が不正を行った場合にとどまらず、法人内で相応の地位と権限を有する者がその権限と裁量を利用して法人の業務として行った隠蔽・仮装行為であると認められる場合は、原則として法人の行為と評価するのが相当であると判示しました。

本件においても、営業部門の最高責任者である甲らが権限と裁量を利用し、会社の管理体制の不備につけ込んで組織的な不正を行っていたことから、長年にわたる管理監督体制の不備も併せて考慮し、法人の行為と同視して重加算税の賦課要件を満たすと判断しました。

3. 裁判例から見る「同視要件」と「単独犯行」の検討

地裁と高裁の判断の違いを整理すると、地裁が「不正実行者が経営に深く関与しておらず、権限も小さかったこと」や「法人が不正を認識するのが困難であったこと」を重視したのに対し、高裁は「経営への深い関与までは不要であり、与えられた権限や裁量を利用して組織的に行われたこと」や「不正を許してしまうような不備のある管理体制を放置していたこと」を重く見たと言えます。

また、従業員が単独で経理操作を行って横領したケース(大阪高裁平成13年7月26日判決)でも、納税者側が「被害者である会社に重加算税を課すのは不当だ」と主張したのに対し、裁判所は「会社の内部的な問題から過少申告が生じ、適正な徴税が妨げられた以上、重加算税を課すことには合理性がある」として納税者側の主張を退けています。

おわり

重加算税は、隠蔽や仮装行為によって生じた過少申告に対して課されるものです。

結果として不正な申告書が提出された以上、不正の実行者が経営者と同等の権限を持っていた場合に限らず、不正計算が行われた原因や責任が法人側にあるのであれば、法人の行為として重加算税が課される可能性が高いと言えます。

仙台地裁のように納税者側の主張が認められるケースもありますが、多くの裁判例では従業員の不正であっても重加算税の対象とされています。

税務上のリスクを避けることはもちろん、横領という直接的な被害を防ぐためにも、不正計算を放置していたと認定されないような内部統制を整備し、不正防止の仕組みを社内で有効に機能させていくことが非常に重要です。

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