今回の記事では、税務調査後に税務署長等の行った処分に対して行うことができる不服申立てとして、再調査の請求を選択する場合について説明します。
目次
税務調査における不服申立制度の改正
平成26年6月の税制改正により、平成28年4月1日以降は、それまでは「異議申立て」という名称だった原処分庁に対する不服申立ては、「再調査の請求」と改められました。
また、青色申告者を除き、異議申立てを経なければ審査請求はできませんでしたが、改正後は、直ちに審査請求を行うことができることとされました。
再調査の請求をした場合、その手続がどのように行われるかという点では、改正前の異議申立てとほとんど違いはありません。
税務調査における再調査の請求の申立て
税務調査における再調査の請求は、更正処分等の通知を受けた日の翌日から起算して3カ月を経過するとできないので、それ以前に税務署長等に対して再調査の請求書を提出しなければなりません。なお、処分の通知書に国税局等の職員により調査がされたことが記載されている場合には、その国税局長に対して再調査の請求書を提出します。
再調査の請求書の記載事項の一つとして、「再調査の請求の趣旨及び理由」があります(通法81①三)。
趣旨については、どの処分を取り消すのか、例えば加算税だけの取消しを求めるのか、本税も加算税も取消しを求めるのか、あるいは、本税の一部の取消しを求めるのかなど、取消しの範囲について記載します。
理由については、不服審査基本通達81-3で、取消しを求める理由を具体的に記載するよう指導する、とされているだけです。趣旨と理由の記載は、上記のとおり法定の記載事項ですが、理由において、処分を違法と考える理由を詳細に記載していないとしても、一定の理由が簡潔に記載されていれば、再調査の請求書の提出自体が不適法なものとはされません。
したがって、詳細に主張や立証をするのは、再調査の担当者が決定した後、その者に対して行うことで構いません。ただし、再調査の請求の決定までの期間は3カ月をめどにして行われていますので、再調査の請求書には、その短期間のうちに見直しの調査・審理が迅速、的確に行えるように、詳細な主張や証拠を添付して提出した方が望ましいといえます。
再調査の審理・調査
審査する担当者
税務調査における再調査の請求の処理は、まず、その税務署の個人課税、法人税、資産税等の部門のうちの、内部事務を担当する部門の審理担当等が、請求書が適法なものか否か審査します。適法なものとなると、基本的には審理担当が処理しますが、審理担当や内部事務担当が処理しきれないようであれば、調査担当部門の再調査の請求に係る処分をした部門以外の者に、処理を担当させることになります。
再調査の決定までの手続
処分庁による調査の見直しという制度なため、審査請求の際の手続として定められている答弁書等の提出(通法93)、反論書等の提出(通法95)、口頭意見陳述における発問権(通法96②)、証拠書類等の提出(通法97)などの定めはなく、原処分庁からの証拠の提示や、処分理由についての説明書などが提出されることはありません。
なお、調査の範囲は総額主義に基づいており、「再調査の請求の調査は、再調査の請求人の再調査の請求に拘束されるものではないから、当該再調査の請求の対象となった処分の全部について再調査の請求人の主張しない事項をも含めて行うものとする。」(不服基通84-1)とされています。つまり、申告すべき金額を、原処分や納税者の主張にとらわれず、一から見直すということで審理・調査を行う運用となっています。
ただ、一から見直していては時間が足りないので、基本的には、再調査の請求書に記載された請求の理由に対して判断することを念頭に、原処分時の記録を検討し、条文の解釈が正しかったか否か、処分時に採用した証拠等が十分かどうかや、適用条文の要件を満たしているか否かなどが見直されます。
納税者が行う対応
再調査の担当者とのやり取りとしては、担当者から電話での質問や必要に応じて面談などが行われますが、納税者の方から、特段の新たな証拠の提出や主張がなければ、再調査の請求書の受付後に、一度二度質問等が行われるだけのことが多いと思われます。したがって、主張や証拠の提出を早期に行わないと、原処分の見直しに留まり、それ以上には十分な審理・調査が行われないおそれがあります。
特に新たな証拠がないとしても、場合によっては、原処分庁が処分の根拠とする証拠について、その証拠からは処分の理由としている事実関係を認定することはできない、主観的な推測に過ぎず、そうでない可能性も十分にある、というような主張もできるかと思います。
争いごとですので、自分の主張をするだけではなく、相手の主張を理由付けて否定しなければ、なかなか主張はとおりません。不服申立てを行う場合は、まず、税務調査専門の税理士に意見を聞いてみることが大切だと思われます。