はじめに
「ギャンブルで得たお金には税金がかかるのか?」
この疑問は多くの方が一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
最近では芸能人やスポーツ選手がオンラインカジノを利用し、刑事事件や税務問題に発展するケースも報じられています。
そのたびに「ギャンブルのお金は申告しなければならないのか」「もし申告しなかったらどうなるのか」といった関心が集まります。
この記事では、ギャンブルによる所得、いわゆる「ギャンブル所得」が税法上どのように扱われてきたのかを、歴史的な流れと最高裁判決を交えながら解説します。
普段ギャンブルをしない方にとっても、ニュースや時事問題を理解するうえで役立つ内容です。

目次
1 賭博による所得の所得区分

まず、刑法の観点から整理しておきましょう。
競馬・競輪・競艇・オートレースといった「公営ギャンブル」以外の賭け事はすべて違法とされています。
国内から接続して利用する海外のオンラインカジノも、刑法上は違法行為にあたります。
しかし、違法であるか合法であるかにかかわらず、税法上は「所得があれば課税対象」となります。
ギャンブル所得については、原則として「一時所得」に分類されます。
一時所得とされる理由は以下のとおりです。
〇例えば競馬では、馬券を購入しても毎回利益が出るわけではなく、継続的に儲け続けるのは困難と考えられている。
〇そのため、偶然利益が出ても「臨時・偶発的な収入」とされ、一時所得に当てはめるのが妥当と解されている。
なお、所得税法の条文に「ギャンブル所得は一時所得とする」と明文で定められているわけではありません。
実務上は「所得税基本通達」で原則一時所得と整理されています(所基通34-1⑵)。
ただし、平成27年と平成30年の通達改正で、「営利を目的とする継続的行為」に該当する場合には一時所得ではなく雑所得などと認められる可能性が明確化されました。これにより、それまでの一律的な扱いから大きく変化が生じたのです。
2 過去の通達の取扱い
歴史を振り返ると、当初はギャンブルによる所得は課税対象外でした。明治20年に所得税が制定された当時は、「営利の事業に属さない一時の所得」は非課税とされていたのです。
その後、昭和22年の所得税法改正で「一時所得」という区分が新設され、賭け事の払戻金も課税対象に含まれるようになりました。
昭和26年の通達では、次のように示されていました。
〇競馬などの払戻金は、常習的に参加する人であっても一時的な性質のものだから「一時所得」に分類される。
〇控除できる金額については、常に馬券を買っている人は、その年中の「すべての購入金額」を必要経費として控除できる。つまり、外れ馬券も含めて控除できるとされていた。
ところが、昭和45年の通達改正では大きな変更が行われました。外れ馬券の購入費は控除できなくなり、当たり馬券の購入費だけが控除対象とされたのです。以降、平成27年の最高裁判決までは「外れ馬券は控除不可」という取り扱いが続いていました。
3 本件判決

この流れを大きく覆したのが、平成27年3月10日の最高裁第三小法廷判決です。
事件の概要は次のとおりです。
ある納税者が、馬券を自動的に購入するソフトウェアを使い、独自の条件設定のもとでインターネットを通じて長期間・多数回にわたり、ほぼ網羅的に馬券を購入しました。その結果、継続的に多額の利益を上げていたのです。
数字で見ると次の通りです。
〇平成19年~21年の払戻金:約30億1千万円
〇掛金総額:約28億7千万円
〇実際の利益:約1億4千万円
〇当たり馬券の掛金:約1億3千万円
もし従来通り「一時所得」として計算すれば、当たり馬券の掛金しか控除できないため、利益は約28億8千万円とみなされ、給与所得と合わせて約5億7千万円の脱税とされてしまいました。
しかし、一審・控訴審ともに「これは偶発的な利益ではなく、継続的かつ営利を目的とした経済活動である」と判断。
雑所得に分類され、すべての馬券購入費を必要経費と認めました。
最高裁もこの判断を支持し、検察官の上告を棄却したのです。
最高裁が重視したのは以下の点です。
〇ソフトを使い、回収率を重視した網羅的購入を継続して行っていたこと。
〇5年間連続して利益を上げていた実績。
〇一枚一枚の馬券ではなく、一連の購入行為全体を「一体の経済活動」と評価できること。
さらに、外れ馬券の購入費用についても「一連の経済活動に不可欠」として、経費計上を認めました(ただし、裁判官の中には反対意見もありました)。
4 本件判決の影響
この判決を受け、所得税基本通達が改正され、「営利目的で継続的に行うギャンブルは雑所得になりうる」と明確化されました。
また、この判決以降、競馬やその他のギャンブル所得の区分を争う裁判や審査請求が相次ぎました。多くは「一時所得」と判断されていますが、ケースによっては「雑所得」とされた事例もあります。これは、従来の一律的な判断から一歩進んだ、大きな転換点といえるでしょう。
おわりに

ギャンブル所得と税金の関係は、一見すると「儲かったら税金がかかる」で済むように思えます。
しかし、実際には「一時所得か雑所得か」という区分によって課税額が大きく変わり、納税者の負担に直結します。
最高裁判決は、「継続的かつ営利的なギャンブルは一時所得ではなく雑所得」と認め、外れ馬券も経費に含められることを示しました。
この判断は、その後の通達改正や実務に大きな影響を与えています。
今後も判例や通達の運用によって、ギャンブル所得の扱いは変化していく可能性があります。
次回の記事では、判決後に争われた他の事例や、実際に雑所得と認定されたケースについて紹介していきます。
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